「守りの運用」が限界を迎えるサインと、点を線に変える考え方
「システムを止めないこと」を最優先に、監視・障害対応・問い合わせ対応をこなし続ける。多くの情シス部門が担うこの「守りの運用」は、ある時点から急に回らなくなります。人員は増えないのに対応すべき対象だけが増え、改善に手が回らなくなるためです。本記事は、守りの運用がなぜ構造的に限界を迎えるのか、その兆候をどう見分け、点の対処を線の運用に変えるにはどう考えればよいのかを整理します。結論を先に言えば、限界の正体は個人の頑張り不足ではなく「守りが自動的に積み上がる仕組み」であり、抜け出すには現状の可視化から始めるのが最短です。
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「守りの運用」とは何か
守りの運用とは、既存のシステムやインフラを安定稼働させ続けるための業務全般を指します。具体的には、サーバやネットワークの死活監視、障害の一次対応と復旧、OSやミドルウェアのパッチ適用、バックアップの確認、社内からの問い合わせ対応、変更作業の実施などです。
これに対して「攻めの運用」は、業務改善やIT戦略の立案、新しい仕組みの企画、コスト最適化、セキュリティ強化の推進といった、事業を前に進める業務を指します。守りが「現状維持」なら、攻めは「価値の上積み」です。
問題は、この二つが同じ人員・同じ時間を奪い合う関係にあることです。ある調査では、情シスが最も多く時間を割く業務はシステムの運用・保守や報告、次いで問い合わせや障害対応で、両者だけで業務時間の大半を占めるという結果もあります。攻めに使える時間は、守りを終えた後の「余り」でしかない、というのが多くの現場の実態です。
なぜ「守りの運用」は限界を迎えるのか
守りの運用の限界は、担当者の能力や努力とは別のところで起きます。次の三つの構造が、時間の経過とともに必ず効いてくるためです。
1. 対象は増え続けるが、人員は増えない
システムは新規導入・クラウド移行・SaaS追加のたびに増えていきます。一方で運用担当の人数は据え置かれることが多く、一人あたりの監視・対応範囲が年々広がります。守りの総量は右肩上がりなのに、それを支える工数は横ばい、という不均衡が限界の第一の原因です。
2. 「割り込み」が改善時間を先に食べる
障害対応や問い合わせは、発生した瞬間に最優先になります。腰を据えて取り組むはずだった改善作業は、割り込みが入るたびに後ろへずれ、結局その日は着手できずに終わります。改善は「重要だが緊急でない」ため、緊急対応に構造的に負け続けます。これが、忙しいのに何も前進しないという感覚の正体です。
3. 属人化が撤退不能を生む
守りに追われる現場では、手順を整理・共有する時間すら取れません。結果として「あの作業はあの人しか分からない」状態が積み上がります。担当者は休みづらくなり、退職や異動が起きると運用が一気に危うくなります。属人化は守りの負担を一時的に軽くする一方で、その人が抜けられない状態を固定してしまいます。
【セルフチェック】守りの運用が限界に近づくサイン
次の7項目のうち、3つ以上当てはまる場合、守りの運用はすでに限界の域に入っている可能性があります。
- 改善やIT企画に着手したいが、この半年ほとんど手をつけられていない
- 特定の作業やシステムについて、対応できる人が実質1人しかいない
- 障害やアラートの一次対応に、毎日まとまった時間を取られている
- 手順書やナレッジの更新が、日々の対応に追われて止まっている
- 夜間・休日の呼び出しや待機が、特定の担当者に偏っている
- 「なぜこの設定なのか」を誰も説明できない箇所が増えてきた
- 経営から改善やDXを求められるが、現場は守りで手一杯だと感じている
3つ未満なら、まだ仕組みで立て直せる段階です。5つ以上当てはまるなら、個人の工夫では戻せない領域に入っており、運用体制そのものの見直しが必要です。
「点の対処」を「線の運用」に変える考え方
限界を抜け出す鍵は、その場しのぎの対処(点)を、状態を保ち続ける運用(線)へ組み替えることです。守りを頑張る方向ではなく、守りが積み上がらない構造をつくる方向に発想を変えます。
まず「見える化」で守りの正体を掴む
改善の前に、守りの何にどれだけ時間を使っているかを棚卸しします。感覚ではなく実測で把握することで、削減や自動化の対象が具体的になります。次のような表で1〜2週間記録するだけでも、偏りが見えてきます。
業務 | 週あたり時間 | 割り込み頻度 | 属人度 | 自動化余地 |
|---|---|---|---|---|
死活監視の目視確認 | 例:5時間 | 低 | 中 | 高 |
問い合わせ対応 | 例:8時間 | 高 | 低 | 中 |
障害一次対応 | 例:6時間 | 高 | 高 | 中 |
手作業の変更・リリース | 例:4時間 | 中 | 高 | 高 |
「減らす・自動化・移す」で守りの総量を下げる
見える化した業務は、そのまま我慢するのではなく、減らす(不要な監視や報告をやめる)、自動化する(定型作業を仕組みに任せる)、移す(専門の運用体制に委ねる)のいずれかに振り分けます。守りの絶対量が下がって初めて、攻めに使える時間が生まれます。
診断は点、直し続けるのが運用
ここで重要なのが、一度直しても運用を続けなければ状態は戻る、という事実です。設定の不備やコストの無駄は、診断という「点」で見つけられます。しかしクラウドや業務は変化し続けるため、直した状態を保つには「線」の運用が要ります。診断が健康診断なら、運用はかかりつけ医による継続的な管理にあたります。点をいくら繰り返しても、間をつなぐ線がなければ同じ課題が再発します。
Before→Afterで見る「線の運用」への転換
観点 | 守りの運用の限界(Before) | 線の運用(After) |
|---|---|---|
改善の扱い | 割り込みに負けて常に後回し | 守りを削減し改善時間を確保 |
障害対応 | 発生後に個人が対処 | 検知・一次対応を仕組みで標準化 |
ナレッジ | 個人の頭の中(属人化) | 手順化・共有され誰でも対応可 |
状態の維持 | 直しても運用で戻る | 監視と改善で状態を保ち続ける |
経営説明 | 「忙しい」以上を語れない | 工数と効果を数字で示せる |
限界を超えるための現実的な進め方
いきなり全体を作り替えるのは現実的ではありません。守りに追われている現場ほど、小さく確実な順序で進めるのが有効です。
第一に、前述の棚卸しで守りの中身を可視化します。第二に、自動化余地と属人度が高い業務から着手し、効果を数字で示します。例えば、手作業のリリースを自動化して所要時間が半分になった、といった具体的な成果は、次の投資判断や人員確保の説得材料になります。第三に、自前では継続が難しい領域は、外部の運用体制に線としてつなぐことを検討します。
BFTは20年を超える金融・公共システムの運用実績を持ち、ITIL v4やSRE、AIOpsの考え方に沿って「点の診断」と「線の運用」を接続する支援を行っています。守りを軽くしながら状態を保ち続ける運用は、個人の頑張りではなく設計で実現するものだ、という視点が出発点になります。
まとめ
- 守りの運用の限界は努力不足ではなく、対象増・割り込み・属人化という構造から生まれる
- 兆候はセルフチェックで把握できる。3つ以上当てはまれば仕組みの見直しが必要
- 抜け出す第一歩は「見える化」。守りの中身を実測で棚卸しする
- 守りは「減らす・自動化・移す」で総量を下げて初めて、攻めの時間が生まれる
- 診断は点、直し続けるのが運用。点を線でつながないと同じ課題が再発する
よくある質問
Q. 守りの運用は、そもそも減らしてよいものですか。
守りを軽視してよいという意味ではありません。安定稼働は前提です。論点は、同じ安定を「個人の頑張り」で支えるか「仕組み」で支えるかであり、後者に移すほど改善の時間が生まれます。
Q. 人員を増やせないと、限界は解消できませんか。
増員は有効ですが唯一の手段ではありません。まず守りの中身を可視化し、不要な業務の削減と定型作業の自動化を進めると、増員なしでも工数の偏りは緩和できます。増員はその効果を測ったうえで判断する方が、投資の説明もしやすくなります。
Q. 何から手をつければよいか分かりません。
守りの業務を1〜2週間記録し、時間・割り込み頻度・属人度・自動化余地の4観点で棚卸しするところから始めてください。現状が数字で見えると、優先して手を打つべき業務が自然に浮かび上がります。
守りの運用が限界に近づいていると感じたら、まずは自社の運用状態を客観的に把握することをおすすめします。YOROZUでは、システム運用の課題を整理し、改善の進め方を一緒に考える相談を受け付けています。現状の棚卸しからどこを仕組みに委ねるべきかの判断まで、実務に沿ってご案内します。
